おうち時間で地学
実家の一部屋がクリアボックスに占拠されています。マフラーや靴を並べて置いておくのがよくある使
い方ですが、実家にはなんと「石」が置いてあるのです。父が出かけるたび河原の石を拾ってきては並べ
ていたのですが、地質学のフィルターを通すと地球46億年のドラマがプラネタリウムのようで、夢中にな
っていました。父はまさにインフルエンサーです。
趣味からプロの世界へ
この地球のドラマをさらに深くみてみたくて、地質学科に進学しました。卒論から修論のテーマは人類
がおそらく目にすることのできないであろう300kmもの深さの世界です。そんなところにプレートテクト
ニクスがもたらす広い世界が見えてきます。 そして11月の誕生石として人気のあるトパーズがドラマの
主役です。こんなに深い高温高圧の世界まで、水が循環しているのです。
トパーズが映す世界
日本列島は4つのプレートがひしめく世界でもまれな場所に位置しています。プレートの運動は自然
災害という負の側面、温泉や地熱など資源、美しい風景や審美眼がもたらす芸術や詩情といった恵み、
暮らしの基本でもあります。そして、これらに最も大きな役割を果たしているのが、海洋プレートの沈み
込みに伴うマグマの発生です。
マグマは岩盤がドロドロに溶けたものですが、海洋プレートが沈み込むことにより発生する高温状態
でプレートによってマントルにもたらされる水がないとできません。 この水のありかを調べる鍵になる
のがトパーズなのです。
トパーズはフッ素を主成分とするネソケイ酸塩鉱物です。フッ素が最大で20%も含まれるトパーズが
できるには、フッ素に富んだ流体が必要です。これが地下300kmにも及ぶ世界でできるためにはどん
な状況が必要なのか。その解析を地震学的検知によって可能にするため、ひたすらトパーズの
単結晶資料を真球に近づける作業を続け、目もまんまるにして Think Globally, Act Locallyを日々
実践していました。
ホウセキと地球科学
トパーズは滋賀県の「県の石」に指定されています。 トパーズは花崗岩ペグマタイトや気成鉱脈、
高温熱水鉱脈中に蛍石や白雲母などと並んで産出することから、滋賀県の花崗岩山地である田上山
でも採集されます。田上山は砂防発祥の地、古くから木が伐り出され山が崩れ、崩積土の流出により
土砂災害に悩まされてきた歴史があります。現在は緑化が進み山は安定してきています。
宝石 と崩積、ふたつの「ホウセキ」 をうまく調和させることも私たちの仕事としてやりがいを感じ
ています。
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