一般に森林植生は,図―1に示したように山腹の土層中に強じんな根系を網を広げたように,また大小さまざまな杭を打ったように張っている。このことは、山腹斜面の土壌抵抗力の増加に大きくかかわっている。それに対し,根系層崩壊とは図―2のように稲垣(2000)1)が命名した表層崩壊の1形態である。根系層崩壊の特徴は

① 表流水や地下水が集まりやすい地盤で生じる。
② 斜面傾斜が40°前後と急である。
③ 表層は軟らかいが直下の岩盤は硬く、根系が入る間隔を持つ割れ目が存在しない(Nd値は2から50以上に急変)。
④ 崩壊の厚さが1m未満と薄い。
⑤ 崩土内の木が立ったままで全体が高速で流下する。

 したがって,根系層崩壊は表層崩壊の中でも,その崩壊土層の内部構造が根系より緊縛された表土からなるものをいい斜面崩壊に対する植生の関与を意味したことばとして用いている。
 また,崩壊の内部構造やその直下の地盤の構造を明確にしたことで,その崩壊の原因や対策を考えるうえで大変有用となる名称であると考えている。
 たとえば,滋賀県に分布するオニマサ状の風化花崗岩での表層崩壊については,稲垣(2000)2)が根系層崩壊であることを確かめている。また,関東地方に広く分布している土丹など岩盤内にほとんど割れ目がなく根の進入を許さない固さのある塊状の泥岩(写真―5)や,斜面と平行した一枚岩の地盤や人工の切土法面(写真―6)でも根系層崩壊が発生している。これらの根系層崩壊は豪雨によるだけでなく,稲垣(2001)3)によると2000年7月の神津島での三宅島火山活動に関連した地震の際にも弱溶結火砕流地盤の急斜面で発生していた(写真―7)。さらに,タイのコラート高原の熱帯雨林伐採跡ではフタバガキの2次林内で緩斜面であるにもかかわらず,雨期の急激な表流水によって厚さ30㎝程度の根系層が流出して,そこには全く割れ目のない固い砂岩が露出していた(写真―8)。
 つまり,根系層崩壊はこのような特有の植生根系の内部構造を持つ地盤特性があれば,豪雨や表流水,地震力のような著しい外力に際して発生するものであり,先に述べた根系層崩壊の特徴である急斜面や水の集中は絶対条件ではないと考えている。 さらに,一度根系層崩壊が生じた斜面については,滑落面にほとんど割れ目のない岩盤が露出するため,植生の復帰による斜面安定が期待できず,その後同様の表層崩壊が繰り返されることになり4),大きな問題となっている。

 本論文では,表層斜面安定について根系の役割が大きく,植生根系の強度が発揮できない特殊な地盤条件では根系層崩壊が生じることを示した。しかしながら,根系層崩壊の発生メカニズムについては不明な点もあり,今後の大きな課題である。 森林の根系は崩壊の防止に役立つだけでなく樹木をはじめとする地表植生,落葉・落枝などにより雨滴衝撃,地表流水に対する保護効果が期待できる。また,生態系をはじめ多面的に環境保全効果の大きい森林の整備によって、地域全体での斜面の安定を図ることが益々重要となってきており,その効果の及ばない根系層崩壊についての認識が益々重要となる。


6. まとめ

5. 根系層崩壊の地盤工学的取扱い

 鈴鹿山脈に広く分布する花崗岩地域では1998年9月の豪雨で発生したと考えられる多くの斜面表層崩壊が認められた(写真―3)。この表層崩壊は厚さ1m未満の根系を含む表土だけの崩壊が多く,図―45)に示したとおり,均質の砂地盤で発生している表層崩壊に比較して明らかに崩壊層厚が規制されているのがわかる。崩壊面には割れ目のほとんどない風化花崗岩が露出しており,根系の付着は全く認められない根系層崩壊であった(写真―4)。 また,同じ花崗岩が露出する田上山地太神山付近の原生林では巨木が多く地盤特性も表土が厚く,その下位に粘土状―砂状に風化した花崗岩が分布していることにより根系の発達がよく,このためここでは表層崩壊は発生していない。これらの両地区を比較し,根系層崩壊の発生する地盤特性を調べた。
 図―5は鈴鹿山脈での根系層崩壊の状況であり,図―6はその地盤状況である。それに対して,図―7には根系層崩壊地点の根系と根系層崩壊の発生していない太神山の原生林での根系のスケッチである。根系の発達のしかたの違いで根系層崩壊が生じていることがよくわかる。

2. 根系層崩壊の特徴

根 系 層 崩 壊
Slope failure along lateral roots layer of plants

参 考 文 献
1) 稲垣秀輝:1998年台風4号による福島県白河地方での表層崩壊の特徴,応用地質,Vol.40、 No.5、 pp.306~315、 1999
2) 稲垣秀輝:滋賀県南西部に分布する風化花崗岩の表層崩壊の特徴,応用地質,Vol.41、 No.2、 pp.103~112、 2000.
3) 稲垣秀輝:神津島の地形・地質的特徴と2000年7月火山性地震による被災状況,土と基礎,Vol.49、 No42、 pp27~29、 2001.
4) 稲垣秀輝・平田夏実:植生を考慮した表層崩壊の特徴と崩壊予測,土と基礎,(投稿中)
5) INAGAKI、 H. and YUNOHARA、 T.:An estimation of slope failures based on erosion front and weathering front, IS Shikoku 99
ISSMGE,pp.1269~1274、1999.
6) 稲垣秀輝:表層斜面崩壊に対する根系の効果と工学的取扱い,第3回地盤工学における生態系を考慮した環境評価に関するフォーラム
発表論文集,(社)地盤工学会,pp35~42、2000.
7) 八木則男他:根系により補強された土の現地せん断特性,第28回土質工学研究発表会講演集,pp2119~2120、1993.
8) 地盤工学会編:地盤調査法,pp208~212、1998.
9) 中村浩之他:樹木を保全した新しい斜面安定工法について,第4回地盤工学における生態系を考慮した環境評価に関するフォーラム
発表論文集,(社)地盤工学会,pp25~30、2001.

1. はじめに

 1998年8月の台風4号の豪雨は,福島県南部(白河地区)から栃木県北部にかけて死者8名を出す斜面崩壊を発生させた。この斜面崩壊で特徴的であったことは、厚さ1m未満の根系を含む表層だけが崩壊し(写真-1)崩壊面には割れ目がほとんど認められない弱溶結火砕流堆積物が露出し,ここには根系の付着が全く認められない(写真―2)ことであった1)。
 同年9月の台風7号の豪雨では,滋賀県南東部鈴鹿山脈風化花崗岩露出地域で同様な崩壊が発生していた(写真―3写真―4)2)。これらの表層崩壊は特殊な地盤状況で発生する"根系層崩壊"1)であり,本論文ではその地形・地質的特徴と地盤工学的取扱い方についてまとめた。

 福島県白河地方で1998年8月の台風4号により多くの根系層崩壊が発生した。この流動性の高い斜面崩壊は根系が板状体で,ここで発生した根系層崩壊は崩壊幅10~20m程度,崩壊長さ10~30m程度の小~中規模く,崩壊厚さが1m未満(平均53.3㎝)と薄く,斜面崩壊が40°前後と急なところで発生している。また崩壊の発生した地表植生はコナラ等の広葉樹やスギ等の植林であり,表層直下の岩盤は根系が入り込む割れ目がない弱溶結火砕流堆積物である。崩壊した崩土は立木を載せたまま下方に容易に流下しやすく,崩土の運搬距離は70mに達するものがあり最終的にほぼ傾斜0°の平坦地まで達して停止している。崩壊箇所は表流水や地下水が集まりやすい地形や基盤形状の箇所が多く,現地でも崩壊滑落崖に湧水穴を伴うことが多かった。
 典型的な根系層崩壊状況を図―3に示す。これによると,根系層崩壊した基盤の崩壊面には弱溶結の第四紀更新世である白河火砕流堆積物が分布している。この岩盤はハンマーの打撃で鈍い音を発するが,塊状で岩自体はほとんど割れ目を含まないという特徴をもっており,根系は全く認められない。それに対して,その直上に分布する表土は薄く,多数の根系が認められた。つまり表土をしっかり緊縛している根系は岩盤直上で横に広がり,下方の岩盤内には全く入り込んでいない。結果的に崩壊は根系の杭効果が全く期待できない岩盤直上で斜面沿いに延びた根系下面で発生している。

3. 弱溶結火砕流地盤での根系層崩壊


 最後に,植生の斜面安定効果の工学的な取り組みとして以下のことを試みた。一般に根系による斜面崩壊の防止効果は,根系による緊縛効果と杭効果が主なものである。仮に地盤の斜面強度(C3)を植生の根系強度(C1)と土質自体のNd値から推定した強度(C2)とを合計したものと仮定すると,斜面表層のすべりに対する安定性は模式的に図―8のとおりと考えられる6)。根系の深度方向の発達が阻害されるような地盤では,せん断強度の低下するすべり面が岩盤直上に出現するため,根系層崩壊が生じるのではないかと考えている。試みとして,白河地区の簡易貫入試験結果とその付近の根系のスケッチによる岩盤の含根率から地盤のせん断強度を求めてみた。
 この際,C1は八木他(1993)7)の浸水時の含根率と粘着力の関係から求め,C2は表土を粘性土と考え,C2=0.06×98.1Nd8)として求めた。結果は図―9に示したとおりであり,根系層の直下に地盤のせん断強度(C3)の低下箇所が発生している。さらに滋賀県の風化花崗岩地盤における根系層崩壊地点での例を図―10,原生林での例を図―11に示した。土壌の発達した原生林では根系を含めた総合的な地盤のせん断強度(C3)は深度方向での低下する箇所がほとんど認められないが,土壌の発達しない根系層崩壊地点では白河地区の例と同様にC3の低下箇所が発生している。
 植生根系のこれらの斜面安定効果や森林の持つ公益的環境保全機能を期待し,法面安定工法として樹木を残した鉄筋挿入補強土工法
9)なども考案されている。現時点では根系強度を補助的に考慮しているが,さらに積極的に工学的な対策工法として検討していくことも重要である。




4. 風化花崗岩地盤での根系層崩壊