切盛造成(工場・宅地)相談
盛土と切土の地質工学的難しさ
盛土と切土は、土木工事において頻繁に行われる作業です。常時のほか、降雨時、地震動の作用時でも安全である必要があります。しかし、地盤の性質によって様々な難しさが生じます。ここでは、それぞれの工法における地質工学的な難しさを詳しく解説します。
1. 盛土の地質工学的難しさ
盛土は、地盤の上に土砂を積み上げて構造物を支えたり、地盤の高さを調整したりする工法です。主な難しさは以下の点が挙げられます。
滑動
盛土の勾配が急すぎたり、地盤の強度が不足していると、盛土全体または一部が滑り落ちる可能性があります。特に、地震時や豪雨時には滑動リスクが高まります。水田が広がる低地や幅の広い谷を埋めた盛土では、盛土の下に軟弱地盤が分布するため注意が必要です。また、地すべり頭部への盛土は地すべりを誘発します。地すべりが発生すると、その対策が高価となるため、盛土用地の地形地質調査が重要となります。
対策
地質調査により地盤の特徴を調べたうえで、適切な勾配設定、盛土の段階施工、補強材 (ジオテキスタイル) の設置、排水工の設置などが有効です。特に、盛土の安定維持ためには地下水を下げる必要があり、排水工の維持管理も大切です。
沈下
盛土の重さによって地盤が圧縮され、時間の経過とともに沈下が発生します。特に、軟弱地盤や排水性の悪い粘土層では、大きな沈下や不等沈下が起こりやすく、構造物の安定性に影響を与える可能性があります。砂質土の軟弱地盤では、地震時に液状化が発生して、盛土に変形や崩壊が発生します。また、軟弱地盤では重機の走行性が悪く、施工が難しくなる場合があります。施工中や施工後では、盛土材や基礎地盤の圧密により沈下が発生する場合もあります。
対策
地盤改良 (表層置換、深層混合処理など)、適切な盛土材料の選定、段階的な盛土、排水工の設置などが有効です。事前に圧密沈下量を予測し、必要に応じてプレロード工法(事前に荷重をかけて圧密を促進する)を適用します。
盛土材料の調達
大規模な盛土工事では、大量の良質な土砂が必要となります。適切な土質の土砂が近隣で調達できない場合は、運搬コストの増大や工期の遅延につながる可能性があります。良い盛土材料の条件は、締固めしやすいこと、重金属等の有害物質を溶出しないことなどが挙げられます。締固めによる強度管理が難しい土、重機の走行が困難となる土、侵食に弱い・風化が著しく速い土砂は注意が必要です。
対策
事前に土質調査を行い土取場を確保しておくことが重要です。大規模な工事では、現地発生土の有効利用が考えられます。代替材料として、砕石や産業副産物の利用も検討できます。盛土材料は種別に、セメントによる改良や礫質土の法尻使用を検討する必要があります。
2. 切土の地質工学的難しさ
切土は、地盤を掘削して必要な形状に整形する工法です。主な難しさは以下の点が挙げられます。
法面の安定性
切土によって人工的な斜面(法面)が作られますが、法面が崩壊しないよう安定性を確保する必要があります。地盤の強度、地下水位、地層の傾斜などが崩壊リスクに影響を与えます。
対策
地形地質調査により、切土することで崩壊が発生しやすい地すべり地形、地質構造(断層破砕帯、流れ盤)が無いかを確認します。また、適切な法勾配の設定、擁壁の設置、アンカー工、植生工など適切な法面安定工法、保護工を採用します。
地下水
地下水位の上昇は法面を不安定化させます。主に降雨により地下水位が上昇しますが、地下水位は季節変化もある場合があり、法面の安定計算で用いる地下水位の設定には注意が必要です。
対策
事前に地下水調査を行い、地下水位を確認する。地下水位が高い場合にはその原因を特定する。必要に応じて地下水排除工(横ボーリングや集水井)を施工します。
掘削土砂の処理
切土によって発生する土砂は、適切に処理する必要があります。土砂の性状によっては、運搬・処分費用が大きな負担となる可能性があります。
対策
土砂の有効利用方法を検討します。例えば、盛土材として再利用したり、改良を加えて建設資材として利用したりする方法があります。この場合、岩石には自然由来の重金属が含まれることがあり、土壌汚染対策法も考慮する必要があります。
埋設物
切土工事中に、埋設管や構造物の基礎など、予期せぬ埋設物が発見されることがあります。これは、工事の遅延や追加費用発生の原因となります。
対策
事前に埋設物調査を十分に行う必要があります。
3. その他の難しさ
盛土と切土は、一見単純な工法に見えますが、地盤の性質によって様々な難しさが生じます。安全で経済的な工事のためには、地盤調査に基づいた適切な設計と施工計画が不可欠です。盛土と切土に共通する難しさとして、以下の点が挙げられます。
地盤の不均質性
地盤は場所によって性状が異なるため、一概に同じ工法を適用できません。局所的な軟弱層や、断層などの地質構造の存在も考慮する必要があります。
自然災害
地震や豪雨などの自然災害は、盛土や切土の安定性に大きな影響を与えます。設計段階から災害リスクを考慮し、適切な対策を講じる必要があります。
環境問題
工事による周辺環境への影響を最小限に抑える必要があります。例えば、土砂の流出防止、騒音・振動対策、景観への配慮などが求められます。